夏に多くの仏教寺院で厳かに勤められている「施餓鬼会」は、「おせがき」とも呼ばれ、仏教の各宗派で共通して行われる年中行事のひとつでもあります。
春の花1
 この「おせがき」の由来は『救抜焔口餓鬼陀羅尼経』という経典にあります。お釈迦様の十大弟子の一人に阿難という名の尊者がいらっしゃいます。ある時、この阿難尊者がひとりで瞑想の修行をしていると、焔口餓鬼という、口から火を吐く恐ろしい餓鬼たちが現れました。そしてその餓鬼たちが阿難尊者に向かって口々に、「おい阿難、お前の命はあと三日だ。その後は我々と同じ餓鬼道に落ちるのだ」と言い放ちました。これに心から驚くとともに、たまらない恐怖をいだいた阿難尊者は、一体どうすればこの危機を免れることができるのかとお釈迦様にお尋ねになりました。すると、お釈迦様は「阿難よ。まず、三宝(仏法僧)を供養しなさい。それから、今そなたに飢餓に苦しむ餓鬼たちが無事に食べ物を食べられるようにする仕掛けと呪文を教えてあげよう。それらを使って無数の餓鬼たちに食べ物を施す供養をしなさい。そのようにすれば餓鬼たちは飢えや苦しみから完全に逃れることができるようになるし、その功徳によってそなたの命も長らえることができるであろう」とお答えになったそうです。

 古来、仏教ではこの教えに則って、苦しむ無数の餓鬼を救済し供養するための棚(施餓鬼壇)を特別に設置し、餓鬼が無事に食べ物を食べられるようにする仏様達(五如来幡)を迎え、施餓鬼壇には清らかな水(浄水)を満々とお供えして、お釈迦様から親しく教えていただいた不可思議な功徳がある呪文をとなえながら、餓鬼たちに食べ物を施す儀礼を行っています。また日本では、これら餓鬼への供養に加えて、さらに御先祖様方や有縁無縁のあらゆる諸精霊の供養も行っております。さらに、これらの功徳によってすべての人々の福徳延寿を願う儀礼、いわばすべての御先祖様とすべての人々の幸せを祈る儀礼が施餓鬼会なのです。

 施餓鬼会の実施時期は地域によって異なりますが、一昔前まではお盆の前後に行うことが多かったと思います。お盆には有縁の諸霊の供養を中心に行い、施餓鬼会では餓鬼や無縁の諸精霊の供養を行って私たち自身の功徳を積むことが行われていたようです。お盆はその由来から実施する時期が決まっていますが、施餓鬼会は実施する時期が決められていません。最近では5月からお盆にかけて行われることが多いようです。

 弘善寺では毎年、八月二日を「大施餓鬼会」としており、近隣十数ヶ寺の浄土宗寺院の諸上人の随喜のもと、年間の最大規模の行事としてこの「大施餓鬼会」を実施しております。どうぞ今年も弘善寺の「大施餓鬼会」にお参りをいただき、ご一緒にお念仏をおとなえして、すべての諸精霊の供養と、今を一緒に生きているすべての人々の幸せを心から祈る一日をお過ごしくださいますようお願い申し上げます。